P.L.Aimard の音楽エピソードⅡ |
続きです。(私=エマール)
【メシアン夫妻との出会い】
ピアノの習得は、幼い子供にとって厳しい規律が伴います。自由を奪われる感覚に襲われる子供もいるでしょう。しかし人は、自分にあった自由を見つけ出すものです。私の場合は、ピアノが自由でした。私がピアノを弾きたいと思う動機は、内側から湧き上がってくる、自分ではコントロールできないほどの力でした。ですから、自分の人生にあるさまざまな要素、例えば時間であり、人間関係であり、遊びであり、そういったものを全て音楽に捧げることに少しも躊躇しませんでした。そして音楽というものは、自分が犠牲にしたものと、少なくとも同じくらいの代償を返してくれるものなのです。
その時すでに(少年時代)、自分がピアニストになるんだと思っていたかというと、必ずしもそうではありません。私はものごとを常に両面から見るようにしています。音楽への道に情熱を持っていたのは確かですが、自分がやりたい事を仕事に出来るかどうかは運次第のところがあり、そのような特権はいつでも手にできるものではないと知っていたからです。
他にも興味を惹かれるものがありました。私にはどうやら数学の才能があったらしいのです。数学の先生は、私がピアノのコンクールに出て音楽家になろうとしていることを、嘆いていました(笑)。
「音楽などというものがあるのは、極めて残念なことだ」と何度も言っていました。数学には美しさがあり、私はその抽象性が好きでした。音楽だって一種の抽象性なのです。たった一人で問題を解くことが出来る数学の独立性にも、強く惹かれていたのだと思います。これもまたピアノを一人で弾く事に重なってくる。
しかし、1969年、12歳の時にコンクールに出たことで、私は音楽への道へと強くひっぱられていく結果になったのです。コンクールで弾いたのは、ディティユーの「響きの形」、モンペリエという最悪の作曲家が書いたアカデミックなフーガ、そしてリストの「パガニーニ練習曲第5番」でした。その審査員の中に、イヴォンヌ・ロリオがいたのです。
私が演奏している最中に、リヨンの国立高等音楽院の院長(当時エマールが通っていた音楽院の院長)に向かって、「あの子は私がもらいます!」と行ったそうです。イヴォンヌ・ロリオは私にとって伝説的な存在でしたし、メシアンにいたっては、法王のような存在でした。本当はパリにいる別の先生につくことが決まっていたのですが、そのコンクールがきっかけで、私はメシアン夫妻に『誘拐』されてしまう事になったというわけです。幸せな被害者として。
それからはじめのうちは、週に一回、リヨンからパリに通うスタイルでした。パリに住むようになったのは、P.ブーレーズに誘われてアンサンブル・アンテルコンタンポランの創設メンバーになった19歳の時からです。
メシアンとの交流の中で一番印象に残っているのは、メシアンの人柄と態度でした。まなざしひとつにも大きな存在感がある。それでいて他人への配慮を忘れない。つねに何かを聴いているという印象がありました。落ち着いていて、ただ耳を澄ましている。控え目な人でしたけれど、自分のしていることに絶対的な確信を持っていることもわかるのです。メシアンが何かを言う時には、いつも的確でした。印象が強く残るような表現を穏やかに口にする。だから誰でも説得されてしまう。
1950年にメシアンが、鳥の鳴き声を作曲の根底にあるものとして位置づけたのは、大きな意味を持っていたと思います。鳥の声は、いつ、どこで、どのように始まるのか、まったくわからない。鳥の声を聴き取るには、周囲に対して余裕のある感覚を持たなければなりません。メシアンは自分の内部を見ているばかりではなく、周囲の世界に開かれた耳を持っていたのだと思います。
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先日、亡くなられたメシアンの奥様であり、ピアニストのイヴォンヌ・ロリオ氏が、当時12歳のエマールを見出したのですね。エマールの才能は、子供時代から明確だったものと思われます。エマール自身は控え目に答えていますが、恐らく数学の才能も物凄かったのではないでしょうか。数学の苦手だった私(微分・積分あたりで目まいが・・・)には、数学の得意な人には強く憧れてしまいますが、何よりも、やはりエマールはピアニストになってくれて、本当に良かったと思います。現代作曲家にとっても、多くの音楽ファンにとっても。
私も数学の美しさは理解出来ない派の1人です(笑)
メシアン夫妻のエマール誘拐事件の経緯は知りませんでした(^w^)
12歳で見い出されたとは!やはり普通のピアニストとは異色な才能を子供の頃から持っていたのですね!
現代音楽、私は子供の頃から好きでしたが、フランスに行ってますます面白いなぁと思うようになりました☆
chat-vertさんは、子供の頃から現代音楽もお好きだったのですか!さすがですね♪♪私は、子供の頃、いわゆる現代音楽というものを聴いた記憶もないし、聴いていたとしてもよく分からずに、通り過ぎてたと思います(^_^;)
フランスは、まさに現代音楽の作曲家も、優れた演奏家も多くて、たくさんの素晴らしい音楽が溢れているでしょうね。音楽だけでなく、舞踊や美術なども、近現代のフランスの作品って、面白いですよね!長く留学していらしたchat-vertさんが羨ましいです♪
フランス、早く行ってみたいなぁ☆彡