鈴木優人/トーク・コンサート |
【オルガンとチェンバロの出会い】
J.S.バッハ:前奏曲とフーガ ト長調 BWV541(オルガン)
ブクステフーデ:前奏曲 イ短調 BuxWV153(オルガン)
J.S.バッハ:「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」より
前奏曲とフーガ ハ長調 BWV846(チェンバロ)
J.S.バッハ:小フーガ ト短調 BWV578(オルガン)
J.S.バッハ:「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」より
前奏曲とフーガ ト短調 BWV861(チェンバロ)
J.S.バッハ:パルティータ 第4番 より
序曲、サラバンド、ジーグ BWV828(チェンバロ)
J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565(オルガン)
ブクステフーデ:いかに美しき曙の明星(オルガン)
J.S.バッハ:ピエス・ドルグ(オルガン)
今年の9月に行われる、第14回福岡古楽音楽祭に先立ち、そのプレ・イベントとして、鈴木優人氏による、トークを交えたオルガンとチェンバロの演奏会が開かれました。会場が、福岡女学院の講堂という事で、福岡市のはしっこ、春日市との堺のところにあるちょっと辺鄙な場所なので、車で行ってきましたが、駐車場は充分なスペースがあります。
鈴木優人(まさと)氏は、あの鈴木雅明氏のご子息とのことで(お顔の表情も似ていらっしゃいます)、オルガニスト、チェンバリスト、そしてモダンピアノで現代曲も弾かれるとの事。さらに作曲家でもあり、またオペラの演出や、オーケストラの指揮もされるという、非常に多才な音楽家として活躍をされています。
なお、この会場を選んだのは、お父様である鈴木雅明氏がその製作を指導した、名工マニク・ガルニエの手によるオルガンがあるからとの事で、このオルガンは、とりわけJ.S.バッハの演奏に適したザクセン・チューリンゲン様式の楽器をモデルに製作されたそうです。
今回は、会場のパイプオルガンがモダン・ピッチ(A=440)なので、チェンバロもモダン・ピッチに調律して演奏されました。
体でも響きを感じることの出来る大音量を伴う管楽器の一種といえるオルガン、そして爪が弦をはじいて音が鳴る繊細な弦楽器といえるチェンバロ、どちらもそれぞれにその楽器のポテンシャルを引き出した素晴らしい演奏でありました。
この会場のオルガンの演奏台は、客席左側の前方で、舞台と同じ高さの位置にあるため、すごく間近にオルガンの演奏を観る事ができました。足鍵盤さばきをこんなに近くで見られたのは初めてでしたが、やっぱりすごい!複雑なフーガも、自在に演奏されているのがよく分かります。
しかし彼の演奏は、肩に力が入らず、とても自然体な感じで美しい響きを紡ぎだしていたように思います。
演奏の合間には、鈴木氏が楽器や楽曲についてのお話をされました。ブクステフーデは、バッハも影響を受けた作曲家だそうですが、「前奏曲とフーガ」をセットにした形式は、当時ブクステフーデがやっていたそうで、バッハもそれに習ったようです。
また、前奏曲について、フランツ・リストが作曲した、交響詩「レ・プレリュード」についても触れられました。リストは人生を、死への前奏曲であると言っていたそうですが、もともとフランスの詩人の詩による合唱曲の序曲として作曲されたそうです。
鈴木氏は、東京芸大の作曲科で学ばれていますが、その受験の時に、”5時間でフーガの曲を作りなさい”という課題の試験があったそうです(さすが芸大の作曲科)。そしてフーガの定義というか、条件を、簡単にいくつか説明されましたが、今回の前半最後の演奏曲目である平均律クラヴィーア曲集の、ト短調のフーガが、最もそのフーガの定義に模範的というか、特徴が分かりやすい作りになっているそうで、そう思いながら興味深く聴く事が出来ました。帰って楽譜を見て、なるほどなと思いましたが、お話、もっと詳しく聞きたかったな。
アンコールは、チェンバロとオルガン、それぞれ1曲ずつ弾いてくれました。今回は、古楽音楽祭のプレリュードとしての演奏会だったため、バロック音楽の演奏でしたが、会場で売られていたチェンバロ演奏のCD "rencontre" には、バッハなどバロック時代の曲の他に、リゲティや、武満徹、そして野平一郎氏などの現代曲も入っており、演目がすごく魅力的です。帰りの車の中でも早速聴きましたが、とてもとても素晴らしい内容で、とにかく面白い!このCDについては、後日、別記事で書きたいと思います。鈴木氏の本領は、このCDのようなプログラムで、最大に発揮されるのではないかと思いました。
さらに、彼が作曲した、東京ムジーククライスによる委嘱作品である、アカペラ混声合唱のための 詩篇130編による『深き淵より』という曲の楽譜も販売されていたので、買ってきました。
旧約聖書の詩篇130編に基づく歌詞になっていますが、アカペラ合唱で聴いてみたいな。
今まで鈴木優人氏の事は詳しく知りませんでしたが、今回のトークと演奏で、一気にファンになってしまいました。彼の中には音楽への思いがあふれていて、泉のように湧き出しているように思いました。もっと話を聞きたい、もっと演奏も聴きたい!
またCDが本当に素晴らしく。。。ぜひまた、福岡にも来て頂きたいです。