P.L.Aimard の音楽エピソードⅨ |
続き。これでこのシリーズ最後です。(エマールの言葉)
【現代の音楽家のメッセージを伝える】
これからは現代音楽から離れて、古典音楽に集中していくのかと尋ねられることがあります。どうやら演奏家というものは、遺跡を発掘する考古学者のように思われていて、そのように振舞っている方が人々を安心させるところがあるらしい。
それに較べると、同時代の音楽の証人としての演奏家というものについては、現代ではあまり評価されないようです。作曲家の表現というのは、それを取り巻く環境や演奏者次第で、そのメッセージがゆがめられてしまう場合がある。あやういバランスの上に成り立っています。それだけに、現代の音楽家のメッセージを伝える仕事は、とても大事なのです。
そしてもう一つ、私が大切にしなければならないと思っているのは、次の世代に伝えるという事です。教育というものを芸術活動の中心に据える事を、いかなる時にも忘れてはならない。私自身も、偉大な芸術家たちの教えを受けてここまでやってきたのです。彼らの作品を、その演奏を学生たちに伝えていく。そして学生たちがやがて、世界の各地で、彼らなりの方法で、その教えをまた伝えていく。
こうした、目には見えない、そしてかたちにも残らない仕事は、古典派やロマン派の名作を、しかるべき様式にのっとってきちんと演奏すること以上に大切なものだ、と私は考えます。それこそが、音楽という表現が途切れることなく現代まで続いている大きな原動力であり、音楽がいま生まれたばかりのもののように輝くことをやめない秘密なのだと思っています。
(2008年7月11日 札幌)
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エマールが以前、ケルン大学にて教えていたタマラ・ステファノヴィチさんも、エマールに才能を見出され、現在はピアニストとして世界で活躍されています。彼女にとってエマールとの出会いは、大きなものでした。そして、一緒にピアノ・デュオで共演したりも。現在では、母校のケルン大学で、彼女自身も教鞭を執っているそうです。
このように、エマールの教えは次の世代に受け継がれていくことでしょう。他にも多くのピアニストに指導を続けています。
下のDVDは、昨年の大阪いずみホールでの、エマールのリサイタルで購入し、サインを頂きました。この中には、アメリカの作曲家エリオット・カーター氏に直接、曲の演奏の指導を受けている場面があり、100歳近いカーター氏から、熱心な指導を受け、あのように素晴らしい演奏を現在の人々へ伝えてくれます。この中に収録されてあるドイツでの演奏会は、もう最高です。
使命感を持って、意義ある音楽家としての活動を続けるエマール氏。素人の音楽愛好家、ピアノ愛好家の私も、エマールのお陰で、音楽の世界がとても拡がりました。心から感謝です!